究極の老々介護

80代のご夫婦。約10年前に妻が脳梗塞を患い、半身麻痺が残り、現在はほぼベッド上の生活である。その妻を夫が在宅介護しながら二人暮らしを続けている。夫の認知症が進み、通院はおろか内服管理も難しいとのことで訪問看護と一緒にフォローが始まった。ヘルパーが毎日入るものの、食事の支度、洗濯、妻がデイサービスに行く際の更衣、妻のオムツ交換までこなす。妻の車椅子移乗もお手のもので、夫にはいつも頭が下がる思いである。

しかし、夫は近くのスーパーなら買い物に行けるが、それ以外の外出では帰り道に迷い、知人に保護されることもしばしばある。曜日の感覚も曖昧で、妻のデイサービスではない日に玄関先で送迎を待っていることもある。免許を返上したため自転車で出かけるのだが、転倒し肩を強打して暫く腕が上がらないこともあった。体調を崩されることも時折あり、在宅介護が難しい時は妻共々ショートステイを利用するのだが、本人達の希望ですぐ自宅に帰って来てしまう。

フォロー当初は夫もまだまだお元気だったが、最近は傍から見てもお疲れだなと感じる。上記イベントがあった時に、関係者が集まり臨時のサービス担当者会議を開くこともある。在宅生活を続けるのは無理ではないかと夫を説得するのだが、もうしばらくこの家にいさせてくださいと頭を下げられる。遠方の息子が定期的に帰省するが、二人の意思を尊重したいと申されるため、夫に何とか頑張っていただいている現状である。

「お父さんは昔から家のことをマメにされる方だったんですか?」と尋ねると、「全然。必要に迫られてやり始めただけです…」と謙遜される。夫は律儀な方で、我々が失敬する時は一緒に外に出てきて車を誘導し、我々の姿が見えなくなるまで大きく手を振ってお見送りをされる。バックミラー越しに夫を見ながら、「まるで皇族みたいだな」と表している。本当は施設に入所していただくのが良いのだが、夫の手を振るお姿を見たくて今もお二人の元に通い続けている…