総合診療という言葉は難しい…

得意分野に総合診療と書いておきながら大変烏滸がましいですが、総合診療という言葉を説明することは難しい。

北海道の僻地では、残念ながら臓器別専門医が揃っていることはほぼない。だからと言って、僻地の病院で患者さんに「専門外だから小児科、精神科、皮膚科、整形外科…に行って来て」と言うことは、「1時間半〜2時間かけて札幌、旭川、函館…まで行って来て」と言うことと同義であり、当然患者や家族には大きな負担となる。僻地では老若男女、内科的、外科的疾患問わず診る、つまり総合的に患者を診ることが多くなり、患者さんの幅広い訴えに応えていくことは総合診療の大きな役割の一つと言える。

私は大学病院の総合診療科に勤めていた時期があった。その大学病院では、紹介状を持たず訪ねてきた患者の訴えが複数の臓器に跨ぐ場合、受付が総合診療科に回すことが多かった。また私が診た患者の訴えは「痛み:フラつき:不明熱:その他=3:3:3:1」と大別できた。痛みは生活習慣を少し変えてもらうだけで治るケースが意外に多かったが、痛みが慢性化してこじれていると残念ながら解決して差し上げられないケースも少なからずあった。フラつきは加齢による筋力の衰えが原因であるケースが多いが、脳神経内科医でもないと出会わないだろう神経難病にも多く出くわした。重症筋無力症、ALS、脊髄小脳変性症、ギランバレー、慢性炎症性脱髄性多発神経炎などを疑った場合は、大学病院内の脳神経内科に紹介するわけである。しかも、これらの患者はいろいろな医療機関を巡った後、症状がある程度完成されてから尋ねてくることが多かったため、病気を見逃してはならないというプレッシャーも大きかった。不明熱では家族性地中海熱のようなレアな疾患もいたが、意外に多かったのがガンの再発だった。大学病院のような大きな病院の総合診療では、患者層や症状の幅広さ(横軸)に加え、患者さんが抱える症状の長さという時間的要素(縦軸)が付け加わる。

結論として、総合診療とは患者の幅広い症状(横軸)や長年の苦しみ(縦軸)に向き合い、自分達で対応できるものはしっかり対応し、適切な診療科に紹介するべきものは見落としなく紹介するという広がりを持った働き方が要求される診療科と言えるのではないだろうか。だが、これらを実践することもまた実に難しい…