クラウディオ・アバドとグスタフ・マーラー
私の数少ない趣味に音楽鑑賞がある。とりわけグスタフ・マーラーが大のお気に入りだが、かつてはむしろマーラーは苦手な方だった。そんな私がマーラーの虜になったのが、クラウディオ・アバドのマーラーとの出会いである。アバドは世界的に有名なベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督にまで登りつめるが、胃癌が発覚しベルリン・フィルを退団する。療養生活を経てアバドが復帰の舞台に選んだのが、スイスで毎年開かれる世界的に有名なルツェルン音楽祭の芸術監督だった。胃癌で亡くなるまで12年あまりルツェルンの芸術監督を務めるが、アバドがルツェルンで好んで披露したのがマーラーの交響曲だった。マーラーの交響曲は難解でしかも演奏時間が長いため苦手としている人も多いが、アバドが振るマーラーは明快でテンポも良く聴き易い。マーラーが苦手だという方は、少し瘦せこけてはいるが長めのタクトを振る姿が上品で、しかし力強いアバドのマーラーを視聴していただきたい。とどのつまりはマーラーが好きというよりは、「病気と闘う渾身のアバドが好き。そして病躯のアバドが振る渾身のマーラーが好き」といったところだろうか。コロナ禍ではマーラーが演奏される機会が皆無となったが、ようやくマーラーの中でもとりわけ大作である第3番が10月に、第8番(俗に言う千人の交響曲)が12月に披露されるまでになった。合わせて紹介しておきたい。
余談だが、以前勤めていた病院の院長で自らもビオラを弾く方がいた。すれ違うとたまに音楽の話をするのだが、ある時「先生は何が好きなの?」と訊かれた。「マーラーです」と答えたところ、「先生、マーラーなんてうるさくて聴いてられないよ。最近じゃバッハも耳障りに聞こえる」と仰られていた。『ほぉ、単旋律の宗教音楽に回帰してるのか。院長ともなるとスゲェなぁ』とやけに感心したものである…