自宅への想い②

80代男性 札幌近郊のA市

 「末期癌で札幌に入院していた患者が、病院の制止を振り切って自宅に帰ってきてしまった。急ですが訪問診療に行ってもらえますか…」。看護師長の要請に、『勝手に帰ってくるなんて…』と身構えて自宅を訪問すると、彼は穏やかな表情でベッドに横たわっていた。家族で農場とペンションを経営していたが、大自然の中に佇むログハウス調の自宅兼ペンションを見て、自宅に帰りたかった気持ちも納得できた。「素敵なご自宅ですね…」、私の言葉に彼ははにかんだ。もはや口にすることができたのはヤクルトだけだったが、点滴はせず、医療用麻薬も増量することなく、10日ほどして枯れるように亡くなった。

 訪問診療にどのようなイメージを持たれましたか。もちろん訪問診療は美談ばかりではありません。むしろ(訪問診療を含む)地域医療とは泥臭く、地味な営みの積み重ねなのです。