実臨床は難しい①

40代女性。30代の時に家族性の難病を発症した。40歳を過ぎたころから病状が進んできたためか入退院を繰り返していた。病気になると命に関わる事態にまで悪化、自力で呼吸するのが難しくなり人工呼吸器につながることもしばしばだった。病院で療養していたが、本人が退院を希望された。しかし、病状的に自宅退院は難しかったため施設療養となり当院がフォローすることになった。

急変リスクが高いため、もし急変した時の治療方針について本人家族の双方に意向を訊いてみた。本人は「もう入院はしたくない。急変しても積極的治療はせずそのまま看取ってほしい。特に人工呼吸器には絶対に繋げないでほしい…」との意向だった。一方、夫は「子供たちのためにも一分、一秒でも長く生きてほしい…」との意向だった。これは丁寧に意向を擦り合わせないとダメだなと感じた。成人されている子供たちにも来てもらい家族会議を開いたが、双方の隔たりは埋まらなかった。「同じ病気だった親族は自分よりずっと若くして亡くなっている。こんなに長く生きているのは自分だけだ。家族は病気の辛さが分かっていない。だから家族とはこの件についてもう話をしたくない。自分の意向に従ってほしい…」とは本人の希望だった。

その矢先に肺炎になってしまった。最終方針が決め切れず、元の入院先に受け入れていただくことにした。本人に入院していただくことを伝えると嫌な顔をされ、僕はただただ謝るしかなかった。程なくして入院先でお亡くなりになったと聞いたので夫にお悔やみの電話をかけた。人工呼吸器に繋ぐことになったのか夫に尋ねたところ、「否、人工呼吸器に繋がる前に血圧が下がって亡くなりました。もう病気と闘う体力が残っていなかったんですね…」。自分の宿命を毅然と受けとめていた女性の物語でした。