おうちに訪問する医者なら良いですか?

80代男性。2ヶ月ほど前から食事量が減り、動けなくなってしまったとケアマネジャーからの訪問依頼だった。訪問初日、大分お痩せになっているがお腹は膨れており、見た目からもガンを窺わせる状態だった。エコーを当てたところ腸管はむくみ、腹水も認め、ガン性腹膜炎が疑われた。医療機関受診をお勧めしたが、本人は頑なに拒否した。

家族によると、本人は生まれつき脚が不自由で、そのことで幼いころから辛い思いをされ、特に病院に嫌な思い出があり病院嫌いとのことだった。食事が摂れなくなり、どんどん痩せてきて心配した妻と娘が受診を勧めるも拒否、困った家族がケアマネジャーに相談した。ケアマネジャーも対応に困り、「おうちに訪問してくれる医者なら良いですか?」と本人に訊くと了承してくれたため当院に繋がった。

「何らかのガンが疑われるが、全身状態が良くないから恐らく積極的治療の対象ではないでしょう。自宅で看取ることも視野に入れながら本人を説得しましょう…」とフォローを引き受けた。この年は初夏から暑い日が続き、点滴をお勧めしても希望されなかった。家族の前では痛いと漏らすこともあったが、我々の前では弱音を吐くことはなかった。「何かあれば24時間、365日対応で駆けつけますから…」と声がけを続け、2ヶ月ほどして枯れるように自宅で息を引き取った。

遺族訪問の際、「お父さんのような立派な方は初めてなんですが、ご家族としてはさぞご心配だったでしょうね?」と尋ねた。妻は「今すぐにでも入院して欲しいのだが、本人の意思が固くて途中で諦めました…」とのことだった。子どもの時からの医療への嫌悪感だけで、はたしてこのような立派な死を遂げられるものなのか、本人がもう少しお元気だったらいろいろとお話を伺ってみたかった…