医療と音楽の共通点①

コンサートに行ってガッカリすることはあっても腹立たしくなるなんて…アンドリス・ネルソンス指揮、ボストン交響楽団でショスタコーヴィッチ(ショスタコ)の交響曲第5番(タコ5)のことである。タコ5はショスタコとムラヴィンスキー(ムラヴィン)を結びつけただけでなく、ショスタコが窮地に陥るたびに友を救うべくムラヴィンが振り続けた曲である。タコ5はソビエト共産党体制下でショスタコの命を守り続けた。

金管と打楽器の際立つ爆演を聴いた後、ムラヴィンのタコ5が無性に聴きたくなった。ムラヴィンが振る第3楽章は実に切なく、聴いていて涙が溢れてくる。風前の灯だったショスタコの命を表しているかのようだ。だとしたら第4楽章は、タコ5で息を吹き返したショスタコを象徴していると言えようか。しかし、ショスタコも体制に迎合したとの誤解を与えないように配慮したのか、抑制の効いた実に冷静な指揮ぶりである。出会いから20年あまり、2人の間には周囲には分かるまい微妙な機微があったに違いない。

曲の解釈はある程度、演奏家の裁量に任されている。しかしタコ5はムラヴィンが初演をし、生涯にわたって振り続けたからこそ今日の名声を獲得したことを忘れてはなるまい。二人の天才芸術家が悲壮な決意で、まさに命懸けで結実した結果、我々はタコ5を享受することができている…(ネルソンスを非難してしまったが、彼は今、世界で最も多忙な指揮者であり、僕がこれまで聴いたコンサートの中でNo.1を挙げるとしたら、アンドリス・ネルソンス指揮、サイトウキネン・オーケストラでマーラーの交響曲第9番を挙げたい)