地域包括ケア病床…

超急性期病院にはないが、急性期を乗り越え状態が安定した患者の受け入れや、リハビリに力を入れている病院に最近設置されることが多くなったのが地域包括ケア病床である。厚生労働省「地域包括ケア病棟のイメージと要件」によると地域包括ケア病床のイメージは以下のようになる。

急性期からの受け入れ:急性期治療を終えた患者さんに、在宅復帰・社会復帰するためのリハビリを提供する
在宅・生活復帰支援:患者さんの在宅復帰のために、多職種と連携しながら退院調整し在宅療養の準備を進める
緊急時の受け入れ:在宅療養中の患者さんが、一時的に入院が必要になった時の受け皿

私も訪問診療をしていて、救急当番病院に相談するまでもないが、一時的に入院させてほしい患者さんがいる時にご相談に乗っていただき大変助かっている。私が勤務医として最後に勤めていた病院にも地域包括ケア病床があり柔軟に運用していた。そこでの経験を一つご紹介したい。

30代男性、数年前に脳出血を発症し重い後遺症が残った。もちろん回復期リハビリ病院に入院経験はあるのだが、彼と家族は機能回復を願い、受け入れてくれる病院を探してはリハビリ入院を繰り返していた。そして私が勤めていた病院にも相談が来たのだが、制度上、回リハ病床で受け入れることはできなかった。「1か月限定で地域包括ケア病床で入院を受け入れたのだが主治医を担当してもらえないか」と医療相談員から頼まれた。地域包括ケア病床では2週に1回、患者さんに関わる職種が集まり多職種カンファレンスを開催する。このカンファの席上、「残り2週間となってしまったが、我々は彼に何をして差し上げられるだろうか?」と問いかけた。若い病棟看護師と理学療法士は「時間が解決してくれるのを待つしかないのではないでしょうか」と答えた。一方、中堅の言語聴覚士は「現状をきちんとお話しし、新たな一歩を踏み出させるべきではないでしょうか」と答えた。数日考えた末、私が出した結論は「彼の母親から話を聴く」ことだった。彼は重い言語障害があり、話がほとんどできなかったからだ。母親から伺った彼の闘病記は私の想像を超える壮絶なものだった。そして自宅療養している間も家族総出でリハビリに取り組んでいたのである。お話を伺った後、脳出血で失った機能を大幅に回復できるのは発症から半年くらいまでであるため、この間は病院で集中的にリハビリが必要なこと、しかし半年を過ぎるころから回復は横ばいになるため、残された機能を維持しつつ障害とどう付き合っていくかに焦点を当てて地域社会の中でリハビリを続けることが必要なことをお話しした。母親は「先生のお話はよくわかりました。こんなにお話を聴いていただいたのは初めてだったんで嬉しかったです。でもね先生、希望を持ちたくなるじゃありませんか…」と話された。「お気持ちはお察しします」と私は応えた。入院期限を迎え、彼は家族と一緒に退院していった。

地域包括ケア病床の利用の仕方としては間違っているかもしれない。しかし、地域のニーズに柔軟に応えてくれる病床があってもいいんじゃないかなと思う…