在宅の力
①90代女性。重篤な感染症に罹り一命を取り留めるも、食事が摂れず末梢点滴だけで入院生活を過ごしていた。このまま食事が摂れないのであれば自宅で看取りたいとの家族の希望で自宅退院した。家族は自宅での点滴継続は希望されず、食べたい時に食べられる物を摂らせて過ごさせたいとの希望だった。誤嚥するかもしれないが、無理のない範囲でお願いしますとだけ言い添えた。初めは柔らかめの食べ物から始まり、元々食べることが大好きだったためか、我々の予想を覆し1か月後には普通の食事が摂れるようになった。退院カンファで本人にお会いした時、末梢点滴だけで1か月過ごしている方とはとても思えない肌艶ではあったのだが…
②90代女性。新型コロナウイルス感染を機にすっかり体力が落ちてしまった。リハビリ入院していたが、リハビリどころか食事を摂ることさえできず末梢点滴だけで過ごしていた。元いた施設の相談員と家族が相談し、住み慣れた施設で看取りたいとの希望で施設退院した。相談員の方はとても熱心な方で、退院カンファの席上「なるべく以前のように過ごさせてあげたい。ウニや筋子が好きなので食べさせてやりたい…」など退院後のプランをいろいろ話された。私は「ちょっと待ってください。食べることもものすごくエネルギーのいることなんです。決して無理をさせてはいけません。まずは本人の負担にならないような食事からです…」と言い添えた。施設スタッフの献身的なケアのおかげで、今はお粥に刻み食、そして大好きなウニや筋子を召し上がっている…
③90代女性。感染症に罹り食事量が減り入院となった。しかし入院を機に認知機能低下がさらに進み、食事が摂れないどころか末梢点滴も自分で抜いてしまうため入院生活が難しくなっていた。このまま食事が摂れないのであれば自宅で看取りたいとの家族の希望で自宅退院した。退院当初は介護に拒否を示し、オムツ交換や食事介助が大変だった。我々が身体を触ろうとするとものすごい抵抗を示した。そのうち家族も要領を得たのか、本人のペースに合わせて1~2時間かけて食事をさせるようにした。退院当初は皮下点滴も併用していたが、食事量が確保できるようになり点滴は中止した。最近では診察やオムツ交換で身体を触ろうとしても拒否が和らいできている…
もちろん、上手くいくケースばかりではない。むしろ上手くいくことは珍しく、まずは本人に生命力が残っていることが大前提となる。しかし、慣れ親しんだ人や住み慣れた環境には何か不思議な力が宿しているのかもしれない…

